アントレプレナーシップ教育(起業家育成)の一環でPepperを活用し大学本部と企業のコラボを実現(国立大学附属高校・スーパーサイエンスハイスクール)

  • 広島大学附属高等学校 様

広島大学附属中・高の岡田圭介先生は、静岡県掛川市の中学校赴任中から、現任校(広島大学附属中・高等学校)でもPepperを情報科目のメイン教材として活用してくださっています。今回、その授業内容や企業とのコラボの経緯を中心に伺いました。

広島大学附属高校について、教えてください。

  • 全国に17校ある国立の高校のうちの1つです。全人教育を理念としており、自由・自主・自律の校風の中で、個人の特性を向上させ、豊かな人間性を確立することを目標としています。学校行事をはじめとして、生徒たちによる自主的な活動が多く行われています。2003年からはスーパーサイエンスハイスクール (SSH) に指定され、広島大学や他大学と連携した高度な研究が行われるなど、積極的な活動を行っています。
  • [生徒さんが高校敷地内で会話する様子(STREAMチャレンジ2024作品動画より)]

    [生徒さんが高校敷地内で会話する様子(STREAMチャレンジ2024作品動画より)]

Pepperの第一印象はいかがでしたか?

Pepperが教育現場で使われていることは以前から知っていたのですが、いざ、Pepperが配備された地区に赴任してみると、新しく覚えることが多く、これは大変なことになったぞ、と思いました(笑)

同じように感じる先生は他にも多くいらっしゃるはずです。そこから「Pepperが自分の情報分野の授業に不可欠」とまで思っていただくようになるまでの軌跡をお聞かせいただきますね!(笑)

わかりました。今では、Pepperが中学・高校の授業にどんどん取り入れられて欲しいと思っているので、めいっぱい話しますね!

掛川市の中学校赴任中、Pepperをどのように授業に取り入れたのでしょうか?

中学校技術・家庭科技術分野では4つの分野(A:材料と加工、B:生物育成、C:エネルギー変換、D:情報)を学習します。その中で、中3で行う「技術による問題の解決」ではそれまでの分野の学習を生かし、統合的な問題解決をすることが求められています。

それまでの勤務校では、現代社会の諸問題から解決すべき課題を設定し、技術によって解決するためのアイデアを考える学習を行ってきました。しかしPepperという教材は、そのアイデアを具現化するところまで行うことができるツールだということがわかり、自分のやりたかった授業にガチっとハマった形です。Pepperは、画像の表示に留まらず、複数言語の発話や聞き取り、動きによるコミュニケーションやmicro:bitやChatGPTとの連携など機能が多岐に及び、これまでだったらハード面の制約などで実現が難しく企画倒れで終わってしまったアイデアを実現することができました。こういった点で1プログラミング教材に留まらない懐深さを感じています。

技術科の授業数は年間に35時間、中3は17.5時間と授業数が限られているので、中1でPepperの基本的な操作技能を習得する学習(3時間程度)、中2ではこちらが指定した課題をPepperで解決する学習(6時間程度)、中3では社会における課題を自分たちで設定しPepperを用いた問題解決を行う学習(14時間程度)、と3年計画で実施するカリキュラムをとってあります。中3での学習では4人で1つのチームを組み、課題を設定してアイデアを考えるところから行っています。

また「STREAMチャレンジ」(ソフトバンクロボティクス開催の成果発表会の全国大会、2024年度にて開催終了)にも毎年参加しています。前述の中3の「技術による問題の解決」の学習過程で、テーマ設定、プレゼン能力、スキル的にも高いレベルでプロジェクトを実現できそうなチームを、大会の代表チームとして先に選出しています。大会の締切時期の関係で、制作途中の段階での選出になってしまいますが、代表チームに選ばれたいという気持ちが生徒の学びへのモチベーションに繋がっていると感じています。

令和2年度には「食糧問題を解決するPepper」というテーマで、食物を栽培する装置を制御する作品を出し、全国大会で優秀賞をいただくことができました。令和3年度は「医療現場の負担を軽減するPepper」というテーマで、中遠江医療センターで実証実験まで行わせていただき、こちらも全国大会優秀賞。令和4年度は「SDGsに貢献するPepper」を学内で実証実験し、全国大会で最優秀賞をいただくことができました。先輩たちが全国規模の大会で実績をあげたことが後輩たちの学びの意欲につながったと感じました。

  • [STREAMチャレンジ2021「食糧問題を解決するPepper」の実証試験の様子]

    [STREAMチャレンジ2021「食糧問題を解決するPepper」の実証試験の様子]

  • [STREAMチャレンジ2023にて、掛川市立北中学校の掛川北中Pepper部の皆さんが最優秀賞を受賞した時の様子]

    [STREAMチャレンジ2023にて、掛川市立北中学校の掛川北中Pepper部の皆さんが最優秀賞を受賞した時の様子]

現在、高校生の指導にもPepperを活用いただいていますが、なぜ高校の授業でも導入をしようとお思いになったのでしょうか?

現任校に着任後、高校2年生で情報Ⅰの担当をすることになり、始めは中学校技術科の情報分野との違いに戸惑いを感じることもありました。高校の情報は(1)情報社会の問題解決、(2)コミュニケーションと情報デザイン(3)コンピュータとプログラミング(4)情報通信ネットワークとデータの活用、とで内容が構成されています。

Pepperは(3)の指導に活用できるのは勿論ですが、胸のタブレット端末上に出す画像をデザインしたり、利用者に使いやすいUIの検討をしたりすることもでき、(2)の内容との親和性が高いです。またアイデアによっては、複数の端末からデータを収集し、配列に格納したり呼び出したりするシステムを構築することになり、そういった制作品を例に(4)の内容に入っていくことができ、それぞれの分野をシームレスに指導できる点で非常に魅力的です。

  • それらに気づいたとき、「高校にもPepperがいないと困るなあ。呼びたい!」と思い、授業で使うようになる二学期までにPepperをどうにか呼ぼうと奔走したのが、赴任一年目の一学期です。
  • [2024年度の高校2年生情報Ⅰ授業にて、制作した作品を発表する様子]

    [2024年度の情報Ⅰ授業にて、制作した作品を発表する様子(高校2年生)]

奔走の過程をかいつまんで教えていただけますか?

初年度は教科の予算の中からPepperの年間契約料を捻出しようと思ったのですが、予算オーバーでした。そこで管理職や研究担当の先生に相談をし、本校がスーパーサイエンスハイスクール認定校(SSH)であることを生かし、その取り組みの一環で科学技術振興機構(JST)に申請をして授業開発を行いました。

翌年度は、「ふるさと教育支援」*の座組を活用しようと大学本部経由で企業を探したりしていたところ、広島大学の学術・社会連携室オープンイノベーション本部に産学連携部スタートアップ推進部門というアントレプレナーシップ教育(起業家育成)を行う部署があり、そちらの取り組みの一環として予算がつく可能性があることが分かりました。アントレプレナーシップ教育の枠組みでは、附属高校と大学で既に連携をした実績がありましたから、その枠組みを利用して、翌年度のPepperの導入を実現しました。

Pepperで学習させたいスキルと、アントレプレナーシップが重視するスキルは共通する部分がかなり多かったので、結果的に、一番良いところに落ち着いたと思っています。また、大学の本部の方が企業を紹介してくれたり、大学本部が繋いでくれた企業の方が生徒たちのフォローをしてくれたりと、大学附属高校の強みを感じました。教員一人の力ではできないことなので、大変感謝しています。

ここでは語りきれないご苦労があったことと思います。その奔走の末に、Pepperが導入されたということですが、Pepperを組み込んだ授業の内容について詳しく教えてください。

  • 本校の高校2年生での情報Ⅰの授業は週に2回あります。こちらの授業も基本的には中学校と同様に、まずPepperを動かすために必要な基礎的な技能を4時間で習得させ、その技能を確認するための課題に2時間で取り組みます。その後は中学校での実践と同じように4人1組になり、生徒達で課題設定から、問題解決するためのアイデア出しと作品制作を10時間で行います。
  • [2024年度の授業にて、課題発見の方法を外部講師の企業の方に講義いただいている様子①]

  • [2024年度の授業にて、課題発見の方法を外部講師の企業の方に講義いただいている様子②]

  • 授業としては学生が課題テーマを決めるのが最も難しいところなので、外部の方からアドバイスが欲しいと要望を出し、東広島イノベーションラボというビジネス支援団体から、講師の方を派遣いただき、課題発見の方法について講義していただきました。講義を受けた生徒からは、例年よりも多くの質の高いアイデアが出ました。初年度でしたがSTREAMチャレンジに出場し全国大会で新人賞をいただくことができました。
  • 2年目は大会に出場する2チームを選出し、そのうちの1チームは「子ども食堂で活躍するPepper」というテーマで作品を制作しました。この時は子ども食堂を運営されている企業の方に、実際の作品を動画で見てもらい、フィードバックをいただけて大変参考になりました。現場の方からの意見をその後の制作に反映できたことで学びが大変深まったと思います。
  • [2024年度STREAMチャレンジにおいて、子ども食堂関係者から得たフィードバックを発表する広島大学附属高の生徒さん]

    [2024年度STREAMチャレンジにおいて、子ども食堂関係者から得たフィードバックを発表する広島大学附属高の生徒さん]

最後に一言お願いします!

Pepperに、教材としての有用性を感じています。予算的な敷居の高さというのは、他の教材と比べてやや高いかもしれませんが、本校のような付属校だと、大学などと協力することで導入のハードルが下がる可能性もあると思います。
正直、Pepperがどのようなものなのか、あまり認知されていないから導入がされない面もあるのかなと思っています。さまざまな学校でPepperが使われるようになれば、お互いの学校での事例紹介やアドバイスをし合ったりできるので、もっと流行ってくれることを期待しています。

*「ふるさと教育支援」:自治体や企業様の支援で、学校などの教育機関にPepperを導入する仕組みです。自治体や学校・教育機関が持つ「プログラミングやAI教育の予算不足」「企業と連携した教育活動の実現」という課題の解決と、企業側の「SDGsの取り組み推進」「地域社会貢献」というニーズをつなげる役割をはたします。
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